絶滅したオオカミ

日本には、かつてニホンオオカミとエゾオオカミがいました。しかしどちらも明治期に絶滅してしまいました。
9月4日の朝日新聞に、ニホンオオカミはそれまでオオカミイラスト言われていた固有種ではなく、大陸にいるオオカミと同種であることがわかったという記事が出ていました。わずかに残されたニホンオオカミ6頭の骨と世界のオオカミをDNA分析した研究成果だそうです。
ニホンオオカミとエゾオオカミはなぜ絶滅してしまったのでしょうか。人が絶滅させてしまったと言っていいようです。オオカミのことを書きます。

 
ニホンオオカミは本州から四国・九州に、エゾオオカミは北海道に生息していました。オオカミはイヌ科の動物の中で最大のものです。エゾオオカミはシェパード犬ほども大きかったといいます。自然界でオオカミに対抗できるのは成長したクマくらいですから、オオカミは森の主であり生態系の頂点にいました。

なぜ日本のオオカミ2種は絶滅してしまったのでしょうか。
それは犬や牛馬などの家畜を襲ったからです。人を襲うこともありました。そのため「害獣」と見なされ駆除されました。人間の自然開発や狩猟によって餌のシカが減少したことや、生息地域が分断されたこと、病気が蔓延したことも絶滅の原因といわれますが、人為的な駆除によるところが大きいと考えられます。

ニホンオオカミとエゾオオカミでは少しその様が違います。ニホンオオカミの剥製
ニホンオオカミは、古くから「大神」として崇められる面があり、神から遣わされた強者として狼信仰が存在し、そのため逆に、骨が魔除けとされたり神に捧げるために遺体の需要が多くなって絶滅が早められたといわれます。
エゾオオカミの場合は最初から駆除の対象でした。蝦夷地の開拓で牧場を拓いたところ、放牧した馬や牛がオオカミに襲われました。中でも、日高地方の新冠(にいかっぷ)牧場(御料牧場であり、軍馬の生産・改良を行っていました)で大きな被害に遭ったため、高額の報奨金を懸けてオオカミ狩りをやり、毒餌をまいて駆逐してしまいました。オオカミにしてみれば、1879年の大雪で獲物のエゾシカが激減して人里へ出てこざるを得なかったのです。

もう一つ、日本のオオカミが絶滅した原因は病気が大きいといわれています。明治時代、日本に洋犬が入いるようになり、狂犬病やジステンパーまで輸入してしまいました。これが野生のオオカミにも流行るようになり、病気で数がどんどん減りますし、人が噛まれれば人に被害が出ますのでさらに駆除される原因になってしまいました。

こうして、ニホンオオカミは1905年、エゾオオカミは1896年を最後に歴史からいなくなりました。いまだにその生存を信じて生体や痕跡を探している人がいるようでが、どちらもすでに50年以上確認されていないことから絶滅種とされてします。
現在、世界にはハイイロオオカミという一種だけがユーラシア大陸と北米大陸に生息しています。冒頭紹介した新聞記事のとおりニホンオオカミが大陸オオカミと遺伝的に同一だとすれば、ニホンオオカミは、日本列島に13万年間も孤立しながら、遺伝的に変異してしなかったことになります。化石とまでは言えませんが驚くべきことでしょう。なお、エゾオオカミはDNA分析によりカナダのものと一致するとされていますが、北海道の場合は流氷を伝って大陸と交流があったことが想定されます(本ブログ「オホーツク海の流氷について」)。

ヨーロッパでは、オオカミは森の主であり、その強さは畏怖の対象でした。グリム童話の「赤ずきんちゃん」に見られるように、オオカミは荒々しく強力でありながら、知恵があってずるがしこい存在と見られていたようです。
中世ヨーロッパでは、町はまだ安全ですが、森はオオカミがいて危険だという考えがありました。この場合のオオカミとは、動物のオオカミだけでなく森に逃げ込んだ犯罪者や盗賊集団という説もあります。子どもたちに対しては、森に入ってはいけないという戒めの具体的な存在がオオカミでした。オオカミは、森=山=自然の象徴であり、人が容易に立ち入ってはいけない強大な自然を表したものだったのでしょう。

アイヌの人たちはエゾオオカミとうまく共生していました。エゾオオカミ頭骨ヒグマと並ぶ神(カムイ)とあがめ、集落(コタン)によってはオオカミの神送りの儀式(イオマンテ)が行われていました。平取町二風谷(びらとりちょうにぶたに)のアイヌ文化博物館には、その儀式で使われた頭骨が展示されています。もとより、自然の中で生き、自然と共生してきたアイヌの人たちは、たとえ自分たちの獲物を食べてしまうオオカミでも排除することはありませんでした。

オオカミが絶滅したことで日本の生態系が大きく変わりました。天敵がいなくなったため、イノシシやニホンジカやニホンザル、北海道ではエゾシカの繁殖が増えて、農作物を食い荒らしたり植林した木の芽を食べたり、ほかの生態系にも影響を与えています。最近も農作物の被害(獣害)が増えて問題になっています。

アメリカでも同様の事態が生じ、オオカミの再導入プロジェクトが行われました。それを取り上げたNHKのTV番組を今年3月に見ました。
イエローストン国立公園の周辺では、開拓時代から牧場経営者たちが家畜を守るためにオオカミを殺しました。オオカミは1926年を最後にいなくなりました。これにより、ヘラジカの一種エルクが増殖し、草木の芽を食べ、特に若木が育たなくなってしまいました。植生など生態系を回復するためにオオカミの再導入が計画され、95年と96年にカナダから運ばれたハイイロオオカミ31頭が公園内に放たれました。その後、オオカミは順調に繁殖し、エルクは数が減って生態系が回復しつつあるそうです。このプロジェクトの実行までには、牧場経営者などとの30年に及ぶ地道な協議が必要だったそうです。

自然を制御するには自然をもってするのが良いという実例だろうと思います。アメリカとヨーロッパの何か所かで同様のオオカミ再導入が計画されているそうです。日本でもオオカミを復活しようという提案がありますが、日本では森と街の距離が近すぎるので、人とのトラブルが生じることも考えられることから慎重な意見が多いようです。 2014.09.15

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konnaii について

「こんないいオヤジ」 こと 今内祥雅(こんない よしまさ) と申します。 60歳。札幌市で妻と2人暮らし。 元公務員、現在は自営などその日暮らし。 「プロフィール」をご覧ください。
カテゴリー: サイエンス, 未分類, 農林業・自然 タグ: , , , パーマリンク

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